第2章 1-aでは愛してるよゲームが流行ってるみたいです
天海くんと一緒に、下校時で賑わう廊下を歩く。
彼とすれ違った女生徒が振り返り、ひそひそと頬を染めて、何かを囁きあっているのが視界に入ってきた。
(…天海くんは、やっぱり人気だよな)
男の僕からみてもかっこいいんだ。
女子からしたら、それはそれは見目麗しく映ることだろう。
「でも最原くん、よく逢坂さんと愛してるよゲームなんてできたっすね」
「…え、うん…身の程知らずだよね」
「いや、そんな謙遜しなくても。そういうことじゃないっすよ。なんつーか、好きな相手に愛してるって言うの、恥ずかしくてやってらんなくないっすか?あ、でもそっか、言われる側だったんでしたっけ」
「…たしかに、愛してるって言う側は考えたことなかったかも。言われる側でよかったよ」
ーーーやだよ。逢坂ちゃん帰ろ!
ーーーいや、やりたくないでしょ。
もしかすると。
王馬くんは、逢坂さんだけは相手にしたくなかったんじゃないだろうか。
彼は遊びのゲームだって勝ち負けにこだわる人だ。
(……でも、王馬くんなら言う側じゃなくて言われる側に回れたはずだよな。どうしてあんなに嫌がったんだろ)
言われる側にも、不安があったということだろうか。
愛してるよと言う立場は気恥ずかしくて臨めない、愛してるよと言われる立場も勝ち筋が薄いと判断した?
「…あ、逢坂さん。ハンカチありがとう」
『最原だ、こんにちは。ううん、わざわざアイロンかけてくれたんだね。ありがと』
「…あのさ、逢坂さんって王馬くんにそれらしいこと言われたことある?」
『それらしいこと?』
「あ、ごめん…えぇっと…好きです、とか」
『好きです、がそれらしいことなの?…んー、無いかな』
「えっ。あんなにあからさまなのに?」
『うん。一度も言われたことない。「好きな子」とか、冗談混じりに言われたことあるけど、「完全にそれらしいこと」は言われてない』
(……やっぱり、そうだ)
僕は何を勘違いしていたんだろう。
隙がない彼とはいえ、彼だって僕と同じ歳の1人の男子高校生だ。