第2章 1-aでは愛してるよゲームが流行ってるみたいです
『最原、資料集ありがとう』
放課後、逢坂さんが僕を訪ねてきた。
貸していた資料集を受け取った後も彼女は教室を眺めて、立ち去ろうとしない。
「…もしかして、王馬くんを探してるの?」
少しさみしい気分に落ち込んで、それでも聞かずにいられなかった。
『あぁ、王馬はもう見つけてる。やたら愛してる愛してるうるさいね、あそこのグループ』
彼女の視線を辿ると、そこには愛してるゲームに興じる王馬くんと、赤松さん、獄原くん、夢野さん、百田くんがいた。
さっきから「愛してる」という言葉を軽率に使い回しているのは、百田くんだ。
王馬くんはヤケを起こしている百田くんに動じることなく、「もう一回」と繰り返す。
今のところ、王馬くんが負けたところを誰も見たことがない。
「あぁ、あれは愛してるよゲームって言うんだって。逢坂さんは知ってた?」
『知らない。どうやるの?』
「えっと…一対一のゲームで、攻防戦なんだ。片方が「愛してる」って言葉で攻めて、もう片方は「もう一回」って言葉で切り返せたらその繰り返し。攻撃が通ったかどうかは、愛してるって言った側も言われた側も、笑い出したりしてないか、照れてないか、目を逸らしてないかって部分で判断するんだ」
『へぇー。いろんな遊びがあるね』
「………一緒に、やってみる?」
無謀にも、提案してしまった。
逢坂さんに「愛してる」って言ってもらえたらいいのに、なんて、期待してしまったからだ。
『…うーん?…いいよ』
「えっ」
『えっ?ダメ?』
「い、いや…全然、全然大丈夫」
『じゃあ私からね』
『愛してるよ』
逢坂さんは、優しく微笑みながら僕に言葉をぶつけてきた。
その会心の一撃に、僕の顔は一気に熱を持ち、にやけずにはいられない。
「……鼻血が…」
『えっ、大丈夫?』
「い、いや…言い出したのは僕なのに、免疫なくてごめん…」
『いや、別に大丈夫だけどさ。…はい、これで押さえて』
逢坂さんに手渡されたティッシュで鼻を押さえる。
その柔らかい手触りに違和感を覚え、畳んであったそれで鼻を押さえつつ、器用に広げた。