第2章 1-aでは愛してるよゲームが流行ってるみたいです
(……なんか……いろんなものを失った気がする)
この数分で、ドッと疲れてしまった。
赤松さんは僕の目の前で王馬くんと愛してるゲームをやり始めた。
スタート直後、王馬くんが白眼を向きながら愛してるよ!と攻撃を仕掛け、もともとツボの浅い赤松さんは、見事に玉砕してしまった。
「あっはっはっは!きゃーっむりー!王馬くんに勝てないー!」
涙を浮かべて笑い続ける赤松さん。
楽しげな彼女を見て、近くの席に座っていた夢野さんが話しかけてきた。
「何をしとるんじゃ?ずいぶん楽しそうではないか」
「赤松ちゃんと愛してるよゲームしてたんだよ。夢野ちゃんもやる?」
「んぁ?……ふむ、なかなか帰りのHRも始まらんし…よし、かかってこい王馬!ウチの魔法で返り討ちにしてやるぞ!」
「愛してるよ」
王馬くんは、いつもとは違う声の使い方をして、大人びた微笑みを夢野さんに向けた。
不意打ちを食らった夢野さんは、その王馬くんの視線と甘いセリフに耐えきれず、ゆっくりと赤面していった。
「…ん、んぁぁ………んぁあああ……」
「顔真っ赤だから、夢野ちゃんの負けね。大丈夫?もしかして、本気にしちゃった?」
「…………そ、そんなわけ……そんな…そんなわけ……」
「…夢野さん、あの……ゲームだから。あんまり深く考えない方がいいんじゃないかな?」
「…っ…お、王馬よ、もう一度じゃ!」
「やだよー、だって夢野ちゃん弱すぎるんだもん。もっと他の人で練習してから来てよ」
(…ルールすら知らない僕には二回戦を持ちかけてきたくせに…)
もしかすると、初めから王馬くんは僕のビスケットが狙いだったのでは。
逢坂さんの動向を伺い続けている彼なら、僕がそのビスケットを誰からもらったのかなんて、とっくに知られていてもおかしくない。
担任の先生がようやく教室にやってきて、HRが始まった。
プリントを後ろの席へと配る王馬くんは、僕の視線に、気づいたらしい。
ニヤリと一瞬だけ浮かべたその笑みの真意は僕にはわからないけど、確実に、僕にとって好ましい笑みではないことが理解できた。