第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
相当なアホ面を晒してしまっているのだろうと自覚し、大部分の牛乳を飲み込んで、少しだけの牛乳を口に含んだ。
舌がヒリヒリとして痛い。
狛枝先輩からわざと距離をとったところで腰掛けると、王馬くんが近寄ってきた。
「楽しかった?」
楽しくない。
全く楽しくない。
そう言い返してやりたいけれど、牛乳をこぼしてしまいそうで、黙りこくることしか出来ない。
「負けたんだから、ちゃんと約束守ってよね。今日から毎日1日1時間、オレと息抜きしてよ」
(……息抜き?)
私は研究に手をつけると、食事や睡眠も疎かになるほど没頭してしまう癖がある。
長期間姿を消すことはあれど、最原や楓にさえ、そんな姿を近くで見せた相手はまだいない。
(…王馬くんにさえ、そんなに没頭してるのは見せたことないはずなんだけど)
王馬くんの言葉に引っ掛かりを覚え、彼をじっと見つめた。
私の視線を受けて、彼は、にしし、と笑うだけで、その先を語ろうとはしない。
(…もしかして)
彼の言葉の真意を、都合の良いように解釈しようとして、気づいた。
『………えっ、毎日?』
「うん、今日から毎日、会いに来るからね!」
『……っ!』