第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
反論しようとしたけれど、それを口の痛みが許してくれなくて。
私は仕方なく、黙ることにした。
オレのクッキー美味しかった?
そう聞いてくる彼を迷惑そうに眺めながら、私はわざと大げさに、コクコクと頷いてみせた。
「にしし!良かったぁ」
その私を見て、彼は本当に嬉しそうに、楽しそうに笑った。
(………。)
酷い目に遭わされたはずなのに
私は彼の笑顔がなんだか
嫌いになれなかった
『………ん?』
本人が同じ部屋にいるのに私の魅力を熱く語り続ける狛枝先輩。
それを聞かされて鬱陶しそうな左右田先輩。
その二人を遠巻きに眺めていた私の隣で、コーラのペットボトルをいじっていた王馬くん。
未開封に見えるように細工しているらしい彼の傍らには、「ウルトラデスソース」というラベルが貼られた小瓶が置いてあった。
私と目が合い、王馬くんはさっき見せた無邪気な笑顔とは違い、ずるい笑みを浮かべながら、自分の口元に人差し指を立ててみせた。
(……ただ純粋に、いたずら好きなだけかもしれない)
ウルトラってお前。
そう言ってやりたいけど、私も左右田先輩のリアクション芸が気に入ってしまった。
王馬くんと、共犯の立場なら悪くない
そう思い、彼と同じように私も
人差し指を口元に立てて、ずるい笑みを浮かべた
その数時間後
左右田先輩の、怪獣のような叫びを遠くで聞きながら
私と王馬くんはパッと顔を見合わせて
「……っふ」
「………っ…!」
笑いをこらえきれずに
『「あーっはっはっは!!」』
二人で、涙が出るほど大笑いした