第5章 ⇒OURNAME(後)【明智光秀】【R18】
――……
新卒で入社して半年。
正直仕事になじめたかどうかぐらいのタイミングで、
入籍の報告および有休の申請をするのはなんとなく気が引けた。
しかし、上司にも先輩にも私は本当に恵まれている。
「おめでとう、お幸せにね。」みんな口々にこう言ってくれた。
そして今日、10月某日
光秀さんと私は区役所通りを歩いている。
朝8時台。
通勤ラッシュ前の前日の余韻も少し残る朝、言わずと知れた治安のよくない繁華街を2人で歩く。
「仕事をするには申し分ないが……
そろそろここは離れたほうがいいかもしれないな。」
「へっ?」
『アクセスがいいから新宿を気に入っている』
とよく口にしている光秀さんがこんなことを言うなんて、
あまりに意外で反射的に聞き返してしまう。
ここよりもアクセスが良くて、なおかつ住み心地がいいところ……
全く思いつかないなあ……。
「六本木でも青山でも、台場でも武蔵小杉でも、お前の好きなところを選べばいい。」
「え……うーん……私だけで決めるのはちょっとつまらないから、
これから2人でじっくり決めませんか?」
「くくっ、そんな悠長なことを言っていると、
新居は東京駅の目の前になりそうだな。」
「え、そんなところに住むところありましたっけ……。」
そんな他愛のない話をしながら区役所まであと50mほどのところまできたころ、
突如、背後から片側一車線には似つかわしくない速度で白塗りの光沢のあるセダンがこちらに近寄ってくる。
«やっぱり、朝とはいっても危ないんだな。»
そう横切っていくセダンを追っていこうとしたが、
意外にもそのセダンは自分たちの目の前に停車した。
そしてピカピカに磨かれた車内からは2人のピシッとスーツを着た男性が出てくる。
2人のうちの1人が柔らかい物腰で言った。
「探しましたよ、明智さん。」