第4章 ⇒OURNAME(前)【明智光秀】【R18】
それに……
自分が好きになった梨沙はこれほど“大人の女”だっただろうか。
白地に紫の桔梗模様、袴は藤色から濃い紫のグラデーション、帯は濃い赤。
今どきの大学生にしては古風で正統派のデザインの袴を着て今舞台の上で卒業証書をもらっている女は、2年と少し前に自分の家にやってきた少女とは違った“大人の女性”だった。
去年の夏に帰省した最終日の夜、梨沙の親御さんとの会話がふと蘇った。
「私の育て方が窮屈だったのかもしれませんが、あの子は何かあっても自分で解決しようとするところがあるので。
……もし、今後東京で梨沙が少しでも無理をしていると感じたら、私に連絡をいただけないでしょうか。」
「ええ、お約束しましょう。
ただし、袴のことを気に留めているなら、秘密裏に用意させていただけはしませんか。
彼女のことだから、少しでも気が付く素振りを見せたら必死に遠慮することでしょうから。
……僕は彼女のことを一人の女性として心から尊敬していますから。」
控えめでありながらも穏やかで、それでいて信じられないほどまっすぐに目標に対して努力を怠らない。
今自分の目の前にいる梨沙は、まさに自分が言った通りの女性なのだと思うと無意識に口角が上がる。
自分の隣に座っているどこの誰とも知らない参列者と同じように、その表情のまま彼女に称賛の拍手を送った。