第4章 ⇒OURNAME(前)【明智光秀】【R18】
大学のキャンパスに桜はないけれど、4年間ほぼ毎日通った通学路の途中の通称“桜のトンネル”を通ると桜は半分くらい咲いていた。
4年前、「奨学金ももらってるし、バイト頑張れば大丈夫っしょ」となめきってたころよりは、それなりに「現実」ってものを知って成長できたのかな。
でも、通訳とか翻訳家になりたい気持ちはあの頃のまま、いや、入学したころはちょっと義務感のような感じだったけど、今では言語のおもしろさもわかってもっともっと夢に馳せる思いは強くなったな。
そんなことを思いながらトンネルをくぐってしばらく歩けば、大学の門。
そこには1年生の頃からなんやかんやいっしょにいた麻衣子の姿があった。
根っからの都会人で、家がお金持ちで、ミーハーで調子が良くてちょっと勉強嫌いで。
誰にでもキラッキラした笑顔を振りまいていた麻衣子と私はちょっと違うタイプだけど、毎日本当に楽しかった。
「あ!梨沙おはよ!……ってあれ、袴!?
めっちゃ美人めっちゃ似合ってる!」
「おはよう。そうなの。袴を着せてもらえることになって……
麻衣子こそ麻衣子らしいから門のところですぐわかっちゃった。本当にピンク似合うよ!」
「ん……?その顔はさてはみっつんだな?あとで事情聴取まつりけってー。
……とりあえずインスタあげるから写メとろとろ!」
「だーかーらー、その呼び方なんかすごい違和感だからやめてってば。」
そんなふうにしばらくはいつも通り麻衣子におちょくられていたけれど、不意に麻衣子が真剣な表情をする。
「そういえば、今日はみっつん来るの?」
「うん、来るよ。」
「ならよかった。梨沙の晴れ舞台、ちゃんと見てもらいたかったし。
……あ、もちろん目の保養したいのがメインの目的だけど☆」
あ、目の保養とか付け足してるけど、麻衣子も気にしてくれてたんだ。
私が今日光秀さんを卒業式に呼んだ理由、それは
ー……
「卒業生代表、泉梨沙。」
「はい」
ホールで卒業証書を受け取る姿を見てもらいたかったから。