第4章 ⇒OURNAME(前)【明智光秀】【R18】
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梨沙も他の家族も全員が寝静まった後、国友家のリビングにはパチパチというキーボード音だけが響いていた。
音の主は光秀。
盆と正月に連休を取り、梨沙の帰省についてきているとはいえども、仕事を複数こなしている光秀に"完全な休み”は存在しない。
だからといって昼間に仕事をしていては梨沙や梨沙の家族に気を遣わせてしまうので、夜に遠隔でも進められるような事務作業を済ませるといったサイクルで毎回この帰省シーズンは過ごしていた。
本日中にたまった事務作業を区切りのいいところまで済ませてひと段落しようとしたそのとき、背後から静かな足音が聞こえた。
「光秀さん、いつもお疲れ様です。」
振り向くと梨沙の母が、2人分のお茶をお盆に乗せて持ちながら立っていた。
「ああ、すみません、お母様。お疲れのところ起こしてしまったようで。」
「いえいえ。いつもお忙しいのに、遠いところから本当にありがとうございます。
お茶とお茶菓子を持ってきたので、少し休んではいかがですか?」
「ありがとうございます。仕事のほうはひと段落したのですが、ありがたくいただきます。」
梨沙の母も光秀の斜め前に座る。
しばらくは会話もなくお茶を飲んでいたが、意を決したように梨沙の母は光秀に問いかけた。
「光秀さん、あの子は東京で楽しく過ごせているでしょうか?」
「……はい、僕から見れば問題なく過ごせているように思えますが、なにかご心配でも。」
「私の育て方が窮屈だったのかもしれませんが、あの子は何かあっても自分で解決しようとするところがあるので。
……もし、今後東京で梨沙が少しでも無理をしていると感じたら、私に連絡をいただけないでしょうか。」
梨沙の母の話を黙って聞いていた光秀は納得したように少し目を細めた。
「ええ、お約束しましょう。ただし……」
その言葉の続きを聞いた梨沙の母は、その場で泣き崩れた。