第4章 ⇒OURNAME(前)【明智光秀】【R18】
実家に帰ったからといって、一般庶民よりもおそらく貧しい泉家はどこか遊びに行くわけでも食事に行くわけでもない。
母が少し疲れている様子が気になっていたのを光秀さんも察してくれたのか、初日に
「あまりリラックスしすぎるとなまけ癖がつくぞ……少しはお母様を手伝いに行ったらどうだ?」
と気を遣ってくれたから、あくまで母に気を遣わせない程度に私は家事を手伝っていた。
そんな風に過ごした最終日の夕食、ふいに母がこんなことを言い出した。
「梨沙、あなたも来年の3月で卒業でしょう。
大学の卒業式で着る袴をそろそろ用意しなくちゃね。」
そうだ、そんなこと何も考えてなかったけどもうそんな時期だな。
きっとこの口ぶりから考えると『あなたの袴を用意してあげる』ということだろう。
でも、ここ何日かの生活を見ていて、なんとなくわかった。
“そんな余裕は泉家には本当はない”ということくらい。