第4章 ⇒OURNAME(前)【明智光秀】【R18】
でも、“インスタ映え”はしなくても、この1年半私は本当に幸せだった。
私自体があんまり騒がしいところや派手なことが好きではないからこのペースが合っていたし、そもそも光秀さんになにかしていただくなんてとても畏れ多い。
それに、ちょこちょこ意地悪をする光秀さんだけど、本当はすごく優しい人なんだって実感できることがたくさんあったから。
3つもお仕事をしているからすごくご多忙なはずなのに、2週間に1回は必ず私に会ってくれたこと。
たまに出かけるときは、待ち合わせ場所に必ず私よりも先について待っていてくれたこと。
歩くときはさりげなく車道側を歩いてくれたこと。
私が興味のありそうな情報はいち早く教えてくれること。そう、4月から通訳をする人のことも光秀さんが紹介してくださった。
そして
「なにを車窓を鏡にしながら百面相している?本当にお前は忙しいな。」
いま、隣の席に座ってくださっていること。
「え、嘘……光秀さん以外見てました?」
「ああ、乗降客はみんなお前の顔を楽しそうに見ていたぞ……。冗談だ。」
「もう……心臓に悪い冗談言わないでください。」
大学2年生の途中から付き合いだしてから、お盆とお正月の年2回、私の帰省に光秀さんは必ず同行してくださっている。
大学の男子学生の話を聞いていても絶対彼女の親には会いたくない!って人が多数派なのに、いいですと遠慮しても
「故郷から遠く離れたところに娘を送り出しているだけでも心配は尽きないだろう。なおさら男がいるというのであれば。
それに、親孝行はしておくべきだからな。」
と光秀さんは言ってくださるから、毎回ついついお言葉に甘えてしまう。
私の実家には父親がいなくて、そして光秀さんはご両親にすでに先立たれているというのもあるかもしれないけれど、おかげで今となっては母も弟も、そして祖父母も光秀さんに信頼を寄せている。
『まもなく、盛岡です。東北本線・田沢湖線・山田線・いわて銀河鉄道はお乗り換えです。今日も東北・北海道新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。』
「梨沙、もう着くぞ。荷物は持ってやるから、降り遅れないように気を付けるんだな。」