第3章 PRISONER 【上杉謙信】 【R20】
“謙信様”とSPが言うその人は、上杉家の当主であり、血はつながっていないが私の“お兄様”だ。
連れ子同士なので全く血はつながっていないし、お兄様と私は外見も性格も頭のスペックも全然似ていない。
対外的に、お兄様は「絶対的なカリスマ」そのものだ。
成績優秀・運動神経抜群・圧倒的なルックス。学生時代から今までこの3条件が崩れたことはない。今は多分そこに「お金持ち」もしっかり追加されている。
お兄様は2年前に他界したお父様が持っていた問屋だったANZをたった2年で年商100倍にしてしまったのだから……
「先代のころもANZには安定した経済基盤がありましたが、トップが謙信様に変わってから一瞬で拡大したのです。
矢継ぎ早に謙信様が的確な施策を打たれ、どんどん事業が拡大していくにつれ、それまで“これぐらいでいいか”と思っていたわれわれの意識も“もっと利益を上げるにはどうしたらいいか”という方向に変わりました。」
先日、ANZの専務と話したときに彼は私にそう言っていたけど、彼曰く社員の方もみんなお兄様を“崇拝”しているのだそうだ。
またこの“カリスマ性”は社内だけにとどまらない。
屋敷の使用人は、お兄様の言うことには“絶対服従”なのはもちろん、お兄様には最大限の敬意をもって接している。
私の学校でも「上杉謙信」といえば、男子学生から見たら「尊敬すべき経営者」だし、女子学生から見たら「理想の男性」だから「あんな方の妹として一緒に生活できるなんて本当にうらやましい」なんてことは何十回と言われてきてる。
でもそんな“カリスマ”が私に見せる顔は、みんなが期待しているそれとは大きく違う。
私から見るお兄様は……確実に“病んで”いる。