第3章 PRISONER 【上杉謙信】 【R20】
―……
19:30 六本木
「じゃ、みんな今日もがんばろー☆」
ダンスステージ脇で円陣を組んで気合を入れる、私もそんな一員だった。
“家族”には遅くなると再三伝えたはずだから大丈夫だろう……そう思っていたはずなのに、ステージに上がったその瞬間、視界には“よく見慣れた人影”が複数映っていた。
「う……嘘……」
その人影はまるで警察のように六本木のナイトクラブの喧騒を一瞬で鎮め、ステージにまっすぐ向かってくる。
そして、予想通り私の目の前で足を止めた。
「梨沙様、謙信様がお呼びですのでお迎えに上がりました。」
「今日はサークルのイベントだって……お兄様にもあなたがたにも言ったはずです。3回くらい……。」
「我々も謙信様にそうお伝えはしたのですが……謙信様のご命令ですので。お許しください。」
「お許しください」の言葉とほぼ同時にステージ上にいた私は強く腕を引かれ、一瞬のうちに屈強な男の肩に担がれるような体勢になる。
「いやっ!…やめて!離して!降ろして!」
「それはできかねます。 梨沙 様、お戻りください。梨沙 様がお戻りにならないと謙信様が心配なされます。」
私一人が抵抗してもSP複数名に抵抗できるわけもなく、そのままいつものように後部座席に放り込まれると、運転手は車を走らせた。
「謙信様って……あの上杉謙信?」
嵐の去ったダンスフロアは、しばしの沈黙の後そんな声がまばらに響いていた。