第1章 YOURNAME【明智光秀】 【R18】
≪それにしても最近の大学生は、これほどまでに暇なのか。≫
日本有数の外語大のキャンパスの中庭で仕事をしながら率直に感じたのはこれだった。
たしかに"一番人が集まりそうな場所"を選んだのは自分自身だが、さきほどから雪だるま式に周りに人が増えている。
≪これは計算外だな。
周りに人が増えて見つけにくくなるか、それとも、人が集まってくれる分“彼女”が来る可能性も上がるのか
吉と出るか凶と出るかだな……≫
30分と少し仕事をしたあと、いい加減黒山の人だかりになっている周りをさっと見ると……俺とぴったり目が合う女がいた。
髪型は黒髪ストレート、ローズピンクのリップが色白の肌によく映えている。
特に柄もないシンプルな服を女性らしく着こなす姿はまるで“桔梗”のように清楚だ。
そしてその女も、自分が彼女しているのと同じように、自分をまっすぐ見つめている。
その女が“桔梗”だとそのときほぼ確信した。
しかし、最後の確認をするために俺は彼女のもとへ向かい、左腕の袖を捲る。
彼女の左腕の頸動脈側には、比較的大きなほくろがあると、最後の日に気が付いたからだ。
≪……正解のようだな。≫
ほぼ確信が、確信に切り替わった瞬間、自然に表情が柔らかくなるのが自分でもわかった。
「 ……調査に付き合ってもらおうか。……一緒においで。」
彼女はその目を大きく見開いて、しばらく黙っていたが、しばらくすると小さな声で「はい」と返事をしてくれた。
その返事を聞いた俺はそのまま彼女の左手を取り、互いに言葉を交わすことなくキャンパスをあとにした。