第1章 Happy Birthday
手を引かれて歩くこと、数分。
千歳の目的地の見当がつかないまま歩き続けることに痺れを切らし、とうとう私は彼に尋ねた。
「ねえ千歳、どこに行こうとしてるの?」
私の言葉に振り向いた千歳はもういつもの千歳に戻っていて、私の表情を窺ってから困ったように笑った。
「ああ、んー………悪い。何も考えとらんたい。」
「え?!」
「お前さんが謙也にちょっかい出されとったけん、とりあえずどっか連れ出したかったと。」
「ちょっかいってそんな、謙也はそんなつもりじゃ」
「……分かっとらんのはお前さんだけたい。」
はーっとため息をついた千歳は相変わらず困った表情のままだ。
でも、私を見つめる目は優しい。
彼の大きな手が、私の頭に乗る。
千歳はいつも、視線だけじゃなく私に触れる手も優しい。
撫でられているのだと気付いたのは頭に心地良い感触がしてからだった。
千歳は、続けて言う。
「俺以外の男に、こげん簡単についていったらいかんばい。」