第1章 Happy Birthday
先程までのほんわかした雰囲気から一変、真剣な表情を見せる千歳に謙也が少し萎縮する。
体が大きいぶん、千歳は少しでもシリアスな雰囲気を見せると威圧感が出る。
おそらく、普段とのギャップも影響しているのだろう。
「俺のおらんところでちょっかいかけるとは、良い度胸たい。」
「なっ、せやからそれは誤解やって」
「誤解じゃないっすわ」
「誤解じゃあらへんねぇ〜」
「財前と小春はもうほんまに黙っといてくれや!!!死なすど!」
「ああーん、謙也くんに死なすって言われた〜♡♡」
「小春、浮気か!!ほんまに死なすど!!!」
小春の浮気に敏感な一氏が、ガチな表情でツッコミを入れる。
でも、その一氏に負けないくらい、今の千歳は真剣だった。
その真剣な瞳が、視線が、みんなの中にいた私を捉える。
そして次の瞬間。
長い腕が私に向かって伸ばされ、手を取れと促してくる。
「ほら、行くばい。」
「え…?」
行くってどこに?
これから朝練なのに?
その前に今日も授業普通にあるのに?
そういう一般人における発想がこの人に通用しないことなんて分かっているはずなのに。
どこまでも一般人な私の頭の中は一瞬でそういう現実的なことがかけめぐる。
返答に窮していると、千歳は何も言わずに私の手を取り歩き出す。
当然、手を引かれているため私の足も前に出て部室の外へと誘われる。
小春が興奮してキャーキャー騒いでいる声と、白石の「連れ回すんもほどほどにしといたれよ」という言葉を、最後に背中で聞いた。