第2章 後編
どこかで、名も知れぬ鳥がひと声高く鳴いた。
逆巻く水流の低い轟。木立を抜ける午後の風。
張りつめた空気が、不意に解けた。
――○○は素早く身を屈め、隙を伺い、ここぞという瞬間で地面を蹴った。
身体ごと懐に飛び込むようにして、シルビアの喉元を狙い、木っ端を突き出す――
が。
「…見え見えなのよ」
シルビアは、空いている方の手でやすやすと○○の手首を捕らえ、切っ先の軌道をずらした。
すかさず、掴んだままの手首を引いて○○の身体を地面に引き倒し、身を起こそうとしたその眼前に、手にした枝の先端を突き付ける。
「――振りが大きい。動作が荒い。勢いはあるけどそれだけ、ね。」
呆然とシルビアを見上げる○○。
シルビアはわざとらしく大きなため息を付いて、
「ごっこ遊びなら上出来ってとこかしら?」
意地悪く眉を上げて見せた。
見る見るうちに、○○の表情が苦し気に歪む。
――分かってるわよ。
自分が『嫌な奴』になってるってことくらい。
それ以上見つめることに若干気が咎め、シルビアは、○○に背を向けると、もう一度散らばった薪束を拾おうとかがみこんだ――
その瞬間だった。
――突然、唸り声をあげて○○が背後から飛びかかってきた。