第2章 後編
「ちょっと、なんなの…」
と、顔を覆う○○の腕をどかそうとしたシルビアは
――泣いてる
思わずぎょっと目を剥いた。
と、○○は顔を背けるように、
「わ、わたしだって…」
――ぽろぽろと目じりから涙をこぼした。
「わ、分かってるもの、弱いって」
――どんなに体を鍛えても。
○○の腕にはイレブンやシルビアのような筋肉はつかない。
かといって今日明日でマルティナやカミュのような体術が身につくわけでもない。
ベロニカやセーニャ、ロウほど自在に魔法を操るには、まだまだ長い時間がかかる――
「でも、このままじゃ、後ろで守られてるだけじゃ、いつか置いていかれちゃうかもしれない…」
――○○の言葉に、シルビアは声を失った。
この子は。
○○が剣を取ろうとしたのは。
自分から離れようとするためではなく、
ずっと隣に並んで歩きたかったから――
愕然とするシルビア。
「○○、アタシ…」
思わず、熱いものが込み上げてくる。
しゃくりあげる○○の頬に、シルビアが手を伸ばしたその瞬間、
「――何してるの!?シルビアさん!?」
突然、シルビアの背後にひどく狼狽した声が降りかかった。
「えっ…」
振り返ると、そこには。
「あ、あ、あの、シルビア様…まさか…そんな…」
真っ赤になった顔面を両手で覆った――が指の隙間からは夜明け色の瞳が覗いている――セーニャ、そして、両手杖を構えてわなわなと震えるベロニカが立っていた。
「○○の声が聞こえたと思って飛んで来たら…嘘でしょ…」
シルビアはベロニカを見、そして次の瞬間、自分の下になった○○を見比べた。
――目を腫らして泣く○○と、その上に馬乗りになったシルビア。
一瞬で血の気が引いた。言い逃れできない状況である。
「ま、待って、待ってちょうだい!ベロニカちゃん!これは違うの、誤解なのよ!」
「見損なったわ…シルビアさん…」
ひきつった表情のベロニカに、シルビアの顔面は蒼白になった。
――そんな、まさか。
助けを求めて○○を見たが、○○はシルビアをにらんだままそっぽを向いた。
――結局、その日、○○が機嫌を直して誤解を解くのに、夜までかかってしまったのだった。