第2章 後編
それから二、三日が経過したある昼下がり、川沿いの木立をシルビアと○○は並んで歩いていた。
――夜営に備えての薪探しである。
数日前まで降り続いていた雨の影響か、川の水量は増し、どうどうと勢いのある音が、木々の向こうから響いてくる。
まだ少し湿り気の残る林道は、折り重なる葉の隙間から帯のように指し入る陽光でまだらに染まっていた。
○○は、拾い集めた灌木の束を片腕に抱え、もう片腕でカミュから教わった短剣の型をなぞっている。
「えいっ。こうかな…いや、なんか違うな…」
――その動作をずっと目で追いながら、シルビアは内心深いため息を付いた。
いっそ大人げないほど手加減知らずのイレブンを相手にしている○○は、確かになかなかの上達ぶりを見せていた。
しばらくすれば痛い目を見て諦めてくれはしないか、という淡い期待はかなり早い段階で打ち砕かれることとなった。
さらに、ここへきてカミュたちまで面白半分に手を出したおかげで、○○は剣技の鍛錬に一層のめり込んでしまっている。
魔法の修練は一旦小休止となり、ベロニカも甚く不満げに、
『イレブンたちに○○を取られちゃったみたい』
と、こぼしていた。
「ねえ、シルビア」
不意に振り返る○○に、シルビアははっと我に返った。
「なあに?」
「見てた?今の。」
――○○の頬は、ささやかな興奮で赤く上気している。
「…ええと。どうしたのかしら」
「見てなかったの?」
ごめんなさいね、とシルビアがあやまると、○○は少しばかり唇を尖らせた。
「じゃ、今度はちゃんと見ててね」
と、懐剣のごとく片手に構えた木切れで、今まさにひらひらと眼前に舞い降りる落ち葉を、見事に叩き落して見せた。
――シルビアは、僅かに眉を上げる。
「すごいでしょ。」
ニッとほほ笑む○○。
「カミュが教えてくれたんだよ。」
確かに、なかなかの技術ではある。
が、シルビアは困ったように顔をしかめただけだった。
その様子に、○○は憮然とした表情で
「…褒めてくれないの?」
不満げに呟く。シルビアはやれやれと首を振って、
「…そうねえ。」
○○の隣をすり抜けて先を進んだ。