第1章 前編
口には出さないものの、シルビアは内心、気が気ではなかった。
彼自身としては、どうにか○○を争いから遠ざけておきたい気持ちの方が強かった。
そもそも○○が『ベロニカたちに魔法を教わる』と言った時もさんざんに渋ったのだ。
――そんな事を覚えてどうするのか、危険がかえって増えるだけだ、
○○は自分が守るといったのだから、余計な争いの技など覚える必要はない――
しかし状況は日々変化する。
旅が進むにつれシルビアの目が行き届かない場面も徐々に増えてきた。
そうなると何かあったときに、最低限自分だけでも守れる術は心得ておく必要があるのではないか――
周りからもそう説得され、結局○○の鍛錬について、シルビアも不承不承ながら同意せざるを得なくなった。
だが。
『やっぱりいやだわ』
――どうしたって嫌なものは嫌なのだ。
○○が新しい技を身に着けるたび、それだけ危険に近づいているように思えてならない。
目にすればハラハラと割って入りたくなってしまう。
どうかするとイレブンにつめより、
今のは手加減してしかるべきだったのではないか。ちゃんと○○との体格差を考えているのか。ホイミをかけるタイミングがいささか遅いのではないか――
などと要らぬ声を掛けたくなってしまう。
そのうちに、シルビアは○○の練習が始まるとそっとその場を離れるようになっていった。
そして、毎回泥だらけになって戻ってくる○○の身体を、律儀に改めるのが新しい日課になった。