第1章 前編
――遡ること数日前のことだ。
ソルティコの水門を抜け外海を経由し、メダチャット地方へ到着した勇者一行は、次なるオーブを求めて近辺の探索を開始し、特に北部、怪鳥の幽谷と呼ばれる峻厳な岩山地帯にそれらしき宝玉が眠るという情報を得た。
メダチャット地方北部は他の地域と異なる進化を遂げた魔物が多く生息しており、外見上は今までの敵と同じに見えても、性質や能力の異なる厄介な魔物たちに、一行は思った以上に苦戦を強いられることになった。
そこである時、○○はイレブンに剣術の稽古を付けてほしい、と頼み込んだのだ。
――少しでも、戦力になりたい。
――少なくとも、皆の足手まといにならない程度には。
申し出を受けた時、イレブンは少し思案気味だったが、
「分かった。僕でよければ」
と、翌日から稽古をつけてくれるようになった。
武器はカミュが○○の手でも持てるような軽い懐剣を見繕い、基本動作はマルティナとロウが指南した。
ベロニカとセーニャからいつも通り魔法の手ほどきを受けた後、イレブンを相手役に実戦形式の稽古が始まった。
決して手慰みの遊びではない証拠に、○○はイレブンと対峙するたびに新しい傷をこさえてくる。
今はホイミ一つで消え去る浅い傷ばかりだが、そのうちそれでも追いつかなくなるのではないかとシルビアは危惧していた。
――○○もイレブンも常に真剣だった。
日を追うごとに、めきめき、というよりはかなりゆったりしたペースだったが、○○は教えられたことを一つずつ確実に身に着けていった。
そうするうちに、
「○○。少し戦い方を変えてみろ」
――これまでは静観を続けていたカミュも、本格的に○○の稽古に参加し始めた。
「お前はイレブンと違って身長も重量もねえからな。正面から受け止めるより躱し方を覚えたほうがいい。」
短剣を使った身ごなし――敵の懐に入り込み、急所や致命傷を狙う技――などを伝授するその隣で、
「今のは踏み込みが浅かったわ。気持ちよりもう一歩、奥を狙うようにしてはどうかしら」
マルティナも手取り足取り、無理なくマネできるように丁寧な手本を見せるなどする。
――何だってみんな、○○にそんなことばかり教えるのよ