第1章 前編
陶製の大きな水差しを傾けると、たっぷり蒸気を上げた湯が、溢れんばかりに桶へと注がれた。
――シルビアは桶の湯に自らの手を差し入れる。
きらきらとこぼれた午後の日差しが、さざ波だった水面に反射して輝いた。
湯は、熱くもなくぬるくもない。
ちょうど、肌に触れて快い具合であることを確かめてから、清潔な白い布を一度沈めて引き上げ、水気を絞る。
適度な温もりと湿り気を帯びた布を畳みなおし、その布でそっと、シルビアは目の前の少女の頬を拭った。
「はい、じっとして」
「うっ」
少女――○○の頬には、乾いた泥が頑固にこびりついていた。少しふやかすようにしてから強めに拭い取る。
と、汚れの下から、丸く艶やかな肌が現れた。
「よかったわ。痕にならなくて」
安堵しつつ、シルビアは再び桶の湯で布を洗ってから次の汚れに取り掛かる。
足にも手にも、よく見れば○○のむき出しになった肌は泥やら何やらでひどく汚れていた。
「イレブンが、すぐに回復魔法を掛けてくれたから大丈夫だよ」
「――そういう問題じゃないわ」
シルビアは手を伸ばして○○の頬に触れる。
「ねえ○○」
「なに?」
「一体どういう心境の変化なの」
「変化…?」
小首を傾げる○○に、シルビアは、
「――自分も戦い方を覚えたい、だなんて」