第8章 権力者
「書類、届けに行って来ます」
「あぁ」
これ以上ここに居たらウダウダ余計なこと考えちまいそうだ。
書類を持ち、兵長の執務室を出る。
命日つったら、やっぱり墓参りか?
そういえば俺、母さんの墓作ってねぇな...。
骨もきっとあいつの腹ん中だし。
モヤモヤと考えながら書類配達を終えた。
「只今戻りました」
「遅かったな。
クソでも長引いたか?」
「ち、違います!
ちょっと考え事してただけで...」
「キョウのことか?」
図星をつかれ、息を呑む。
「ったく、てめェは分かりやすい」
フッ、と鼻で笑われた。
「別に兵長には関係ないじゃないですか」
「そうだな」
兵長との間に気まずい空気が流れた時、それを断ち切るようにノック音が響いた。
「なんだ」
「私」
この声...!
「ったく、今日は1人で居たいんじゃねェのか?
キョウ」
ガチャリと兵長が扉を開ける。
「ちょっと顔を出すだけ、長居はしないよ」
黒いワンピースを着たキョウカさんが立っていた。
いつもより声のトーンが低い。
「これ、提出しておこうと思って」
紙を1枚兵長に差し出した。
「今日提出の書類なんてあったか?」
「ないよ。
ハンコをポンッと押してくれれば良いんだよ?」
「んな適当に押せるか、バカ」
「だよね、知ってる」
そう笑うキョウカさんの頬は少し引きつっていた。