第8章 To embrace…
泣いてるだろうと、そう思っていた。
でも実際にはそうではなくて、でも所在無さげに揺れる瞳は、心に負った傷の深さを物語っていた。
「俺待つから…」
智が本気で俺を欲しいと思えるようになるまで、俺はいくらでも待っててやる。
「だから無理すんな…」
ベッドに潜り、丸まった智の身体を腕の中に納めた。
智は俺の胸に顔を埋めると、それまで息を詰めていたかのように息を吐き出した。
「違う…そうじゃないんだ…。無理とか、そうんなんじゃなくて…」
息をする度、言葉を紡ぎ出す度、俺のシャツを掴んだ手に力が入っていく。
俺は大きく上下する背中を撫でながら、まだ完全には乾き切っていない猫っ毛に鼻先を埋めた。
同じシャンプーを使ってるのに、智の匂いはどうしてだか甘くて、必死で抑え込んだ筈の劣情を煽るのか…
「何がどう違う?」
沸々と湧き上がって来る情欲を隠そうと、極めて平静を装った声で智の耳に問いかける。
「俺も良く分かんねぇんだけど…、怖い…っていうか…。前は全然平気だったんだ、人前で裸になることなんて…。でも今はそれが怖くて堪んねぇんだ…」
思いもよらない智の告白に、俺の頭を「致命的」の三文字が掠めた。
人前で肌を見せられなくなったら、それはストリッパーとしては終わったも同じ。
まして恐怖を感じているとなれば、尚更だ。
「でもさっきは平気だったじゃ…」
いや、そう見せてただけなのかもしれないけど…
「翔の前では、な…? でも他の奴らの前では分かんねぇ…。もしかしたら途中で逃げ出したくなるかも…」
珍しく智の口から吐き出される弱音に、正直戸惑いを感じずにはいられなかった。
尤も、恋人としては、この上なく光栄な言葉だが、支配人としては思わず首を捻ってしまいたくなる。
無理矢理ステージに上げたはいいが、下心丸出しのエロい視線に尻尾巻いて逃げ出されたんじゃ、それこそ元も子もない。
現にそういうダンサーが過去にいなかったわけじゃないしな?
たた、だこと智に関しては、そんな問題はないと思っていたのに…