第8章 To embrace…
「で、俺にどうしろと?」
暫く考えた後、俺が出した答えは、智を突き放すことだった。
身体に受けた傷なら、時が経てば自然と癒えていくけど、心に受けた傷だけは、どれだけ時間が経ったってそう簡単には消えやしない。
そんなことくらい、俺にだって分かってる。
でも俺は、智自身に乗り越えて欲しかったんだ。
ダンサーとしての智を失いたくなかったから…
「抱けと言うなら抱いてやる」
そうすることで、智が心に受けた傷が少しでも癒えるのであれば、俺はいくらだって智の望むようにしてやる。
でもそうでないのなら…、ただ性欲を満たすためだけのセックスなら、俺はしたくない。
「どうする?」
胸に埋めたままの顔を頬を包んで上向かせ、ゆれる瞳を真っ直ぐに見下ろしてやると、智は何度か長い睫を瞬かせ、それからゆっくりと瞼を閉じた。
「抱いて…欲しい…。翔に抱いて欲しい。翔が抱いてくれたら俺…、なんつーか…大丈夫な気がするんだ…」
「分かった。だからもう泣くな。な?」
智の言う”大丈夫”が何を指しての”大丈夫”なのかは、正直俺には分からねぇ。
でも普段から無口で、自分の気持ちをあまり口にしない智から出た言葉だ、今はその一言を信じよう。
俺は瞼を閉じたまま上向いた智の額に口付けると、そのまま唇をずらして行って、僅かに開いた柔らかな唇に自分のそれを重ねた。
性急に舌先を開いたその先へと突き入れ、緊張…しているのか、戸惑い気味に触れてくる智の舌先を、決して離すまいとする勢いで絡め取った。
お互いの息が続く限り深く、脳天まで痺れるようなキスを交わし、漸く唇が離れた頃には、智も…そして俺も、肩で息をする有様で…
「翔、お前…ヤニ臭ぇよ…」
予想通りの反応に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
「つか、お前もキスだけでこんなに硬くしてちゃ、後がもたねぇぞ?」
モゾモゾと膝を擦り合わせる足を開き、その中心で主張を始めた膨らみを握り込んだ。
その瞬間、智の身体がビクリと硬直したのを、俺は見逃さなかった。