第8章 To embrace…
久しぶりに目にした智の肌は、あの日見た目を覆いたくなるような痕跡は一つもなく、以前のように透き通るように真っ白で…
俺は一瞬で目も、そして心までも奪われた。
あれ程強く心に決めた筈なのに…、結局性欲には勝てねぇってことかよ…
俺は無言でPCの電源を落とすと、床に落ちたバスタオルを拾い上げ、智の肩にかけた。
「先にベッド行ってろ。俺もすぐ行くから」
「絶対…だな? 嘘だったら俺、明日のステージ立たねぇから…」
おいおい、この期に及んで脅迫か?
まったくいい度胸してるぜ(笑)
疑いの中に僅かな期待を孕んだ視線で俺を見上げる智の顎を持ち上げ、キュッと結んだ唇に唇を重ねる。
「これでも信用出来ないか?」
すると智は首を小さく横に振り、
「分かった、待ってる…」
微かに赤く染まった顔を背けるようにして、俺に背を向けた。
寝室へと消えて行く背中を見送りながら、俺は咥えたタバコに火をつけた…けど、すぐに灰皿に揉み消した。
またヤニ臭ぇとか文句言われるのもごめんだからな…
俺は大きく息を吸い込むと、それを一気に吐き出し、自分を鼓舞するかのように両頬をピシャリと叩いた。
「さて、と…」
あんまり待たせると、智のことだからまた拗ね兼ねない。
俺はリビングの照明を落とすと、智の待つ寝室へのドアを開けた。
気配を感じたんだろうか…
ベッドの上に出来たこんもりとした山が、微かに動く。
「智、ちゃんと顔見せろ」
ベッドの端にそっと腰を下ろし、布団越しの智の背中を撫でる。
一瞬…だけど、背中に触れた俺の指に、智の震えが伝わってきた。
怯えてるんだろうか…
それもそうか…、あんなことの後じゃ、誰だって怖ぇよな…。
だったら尚更俺は…
俺は智の背中を優しく撫でながら、丸くなった身体をスッポリと包み込む布団をそっと捲った。