第29章 Another dancer…【Extra edition】
「どうして? 俺はただ…」
今にも泣き出しそうなニノの顔を見ていると、その先の言葉がどうしても出てこなくて…
「だって俺、こうして雅紀さんに愛されただけで十分なのに、その上こんな物まで…。俺が雅紀さんに返せる物なんて、何一つないのに…」
なんだ、そんなこと…
言いかけた言葉を、俺は咄嗟に飲み込んだ。
ニノが俺のことをどれだけ想ってくれてるのか、その一言で十分分かったから。
「何もなくて良いよ。俺はニノがいてくれさえすれば、何もいらない」
物なんかじゃない、俺はニノがこうして俺の腕の中にいてくれるだけで、それ以外は何もいらない。
「これはさ、俺のケジメっていうかさ、俺がニノのことちゃんと愛してるって証明みたいなモンだからさ、そう重く受け止めずに受け取ってよ。ね?」
って言ったところで、ニノの性格上、超重たく受け止めちゃうんだろうけどさ(笑)
「それに、もっと深い意味のある物なら、こんな所で、しかも繋がったままでなんて、渡さないでしょ?」
俺としては、もっとロマンチックな光景を想像しなかったわけじゃないけどね?
「だから、ね?」
リングケースからリングを取り出し、ニノの右手薬指に嵌めた。
あえて左手にしなかったのは、やっぱりニノが負担に感じないようにとの思いから。
なのに、
「雅紀さんのバカ…」
突然のバカ呼ばわりと、プゥと膨れたほっぺたに、俺の頭の中に無数の”?”マークが浮かんだ。
「あれ…、俺、何か間違ってる?」
ポリっと頭を掻いた俺に、ニノが思わず吹き出す。
そして、右手薬指に嵌った小さなリングを、愛おしそうに光にかざすニノ…
俺はその手を自分の口元まで引き寄せると、キラリと光るそこに口付けた。
「愛してる。一生…なんて約束は出来ないけど、愛してるから…」
「俺がいつか踊れなくなったとしても、それでも傍にいて良いの…?」
「当たり前だろ? 仮に踊れなかったとしたって、俺にとってのダンサーは、ニノただ一人なんだから…。だから、この先何があっても、ニノには俺の傍にいて欲しい…」
ダメかな、と問いかける俺に、ニノは首が横に振って応えるから、俺はその頬を両手で挟み込み、唇が触れ合う寸前のところで囁くんだ…
「Will you dance with me again?」
ってね…
Another dancer…完