第2章 Frustrating feeling…
「チッ…、雨かよ…」
劇場を出るなり舌打ちをして、俺は激しく降り注ぐ雨の中駐車場に停めた車に乗り込んだ。
エンジンをかけると、真っ先に智のスマホを鳴らした。
「出ないか…」
何度コールしても一向に応答のないスマホを助手席のシートに放り、アクセルを踏み込むと、ハンドルを捌きながら、煙草に火を付けた。
どこかで雨宿りでもしてくれてればいいんだが…
フロントガラスに打ち付ける雨粒をワイパーで飛ばしながら願う。
でもその願いは、マンションから程近い交差点に差し掛かった所で崩れ去った。
「あのバカ…」
俺は車を路肩に寄せ停めると、雨に濡れるのも構わず車外に飛び出した。
「おい、智っ!」
すっかり濡れ鼠になった智を抱き上げ、冷たくなった頬を叩く。
するとゆっくり瞼が開いて、何度か瞬きを繰り返すと、俺を見て小さく笑い、
「じゅ…ん…? 迎えに来てくれたん…だ…?」
掠れた声でそれだけを言うと、また意識の糸を手放した。
「ったく、俺は“潤”じゃねぇっつーの…」
一人ごちった俺の呟きは、地面に打ち付ける雨音に掻き消され、智の耳には届いてはいない。
俺は水を含んでズシリと思い智を抱き上げ、車の後部座席に乗せた。
「世話掛けさせやがって…」
ガタガタと身体を震わせる智にブランケットをかけ、俺は再び運転席に乗り込んだ。
どうせ帰る場所は同じなんだ、雨だって分かってりゃ、一緒に帰ろうとも言えたのに…
俺を頼らなかった智よりも、ちゃんと天気予報を確認しなかった自分自身に腹が立った。