第8章 To embrace…
身体の痛みも取れ、少しずつ落ち着きを見せて来た頃、智がダンスレッスンを受けたいと言い出した。
智曰く、大事なこけら落としの舞台で、中途半端な演技は出来ない、ってことだそうだ。
散々嫌がってたわりにな?(笑)
どちらにしろ、ヤル気になってくれたことは、俺は素直に嬉しかったし、それよりも何よりも、智がこれまで本格的なダンスレッスンを受けたことがないことに大きな衝撃を受けた。
あれだけの類い稀なテクニックを持ちながら、それが全部我流だったとは…
智の過去を全て知ってるわけじゃないが、俺はてっきりちゃんとしたレッスンを積んで来たものだとばかり思っていた。
俺は智の希望に応えるべく、知り合いの伝を使ってダンススタジオに智を通わせることにした。
当然だが、レッスンには俺も同行することを条件に。
「ガキじゃねぇし…。一人で行ける」
って、智は言い張ったがな(笑)
でも俺はどうしても智を一人にするのが不安だった。
ニノのように、いつかフラッと消えてしまうんじゃないか…
智に恋愛感情を抱き始めた頃から、ずっと胸の奥にあった不安に、ニノが消えたことによって拍車をかけた。
なのに人の気持ちなんて全く知る由もない智と来たら…
「気持ちは分かるけど、悪いことは言わねぇ、辞めとけ」
って…
なんの事だか分からない俺は、当然のように聞き返したさ、
「お前何言ってんの?」ってな?
そしたら智の奴、
「だから、翔にはダンスのセンスはねぇから、諦めろって言ってんだよ」
はあ?
俺がいつンなこと言った?
「それに、翔みたいな細マッチョっつーの? そういうのが好みの客もいるちゃいるけど、多くはないから…」
…って、お前何か勘違いしてないか?
まさか俺がステージで素っ裸になって踊る…とか?
は、ははは…、想像しただけでゾッとするわ(笑)
つか、やんわり酷い言い様だけど、お前俺のこと何だと思ってんの?
天然だとは思ってたが、そこまでだとは…思ってなかったぜ(笑)