• テキストサイズ

踊り子【気象系BL】

第8章 To embrace…


俺はマンションの管理人に解約の連絡だけを入れると、クローゼットに私物が残っていないかの確認を済ませ、ベッドの端に座ったままの智を振り返った。

「行くぞ?」

「ああ、うん…。あの、さ…、悪ぃんだけど、手ぇ貸してくんね?」

人に甘えることを極端に嫌う智が、俺に向かって手を貸してくれと言う…

それが何を意味するのか、俺はその時になって漸く気が付いた。

自分の足で立って歩けない程、乱暴に扱われた…、ってことなのか、智?

喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

智が話さない以上、俺がその言葉を口にすることは出来ない。

俺と智との間に出来た暗黙のルール。

そのルールを破る時…、それは俺達の関係が終わる時だ。

尤も、智は俺がそんな風に思ってるなんて、夢にも思っちゃいないだろうがな…

「仕方ねぇなぁ…」

わざと面倒臭そうに呟き、智に向かって手を伸ばす。

智は躊躇うことなく俺の手を取り、ゆっくりベッドから両足を下ろすと、俺に凭れかかるように抱き付いた。

「ったく、ほらよ…」

ともすれば倒れてしまいそうになる身体を、俺は両手で抱き上げると、住人のいなくなった部屋を後にした。



「どうする? 買物でもして帰るか?」

車に乗り込んですぐ、俺は今の智が到底出来そうもないことを口にした。

忘れた頃に湧き上がって来る怒りを鎮めるには、平然を装うことしか出来なかった。

「…いい。あんま腹減ってねぇし…」

「そっか…。でもな、お前は腹減ってなくても、俺は超絶腹減ってんだよ」

「あ、そっか朝飯…。悪ぃ…」

思い出したように顔を向けた智の額に、俺は一つだけキスをすると、視線を車窓へと向けた。

「いいよ、途中で何か買えば…。それにお前も何か腹入れとかないとな?」

お前の顔色見ただけで、何も食ってねぇことくらい、俺には分かるから…
/ 426ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp