第8章 To embrace…
「しょ…お…? 何でここ…に…?」
寝惚けているのか、状況が飲み込めずにいる智が、瞼を擦りながら身体を起こす。
「痛っ…」
恐らく筋肉痛のような痛み…なんだと思う…
一瞬顔を歪ませた智は、身体に痛みを感じると同時に、全ての記憶を思い出したのか、咄嗟に俺の腕を振り解くと、ベッドの端で膝を抱えた。
さあ困った…
こんな時にかけるべき言葉を、生憎俺は持ち合わせていない。
こんなんじゃ、恋人失格だな、俺…
自分の情けなさに頭を抱えた、その時、
「手紙…読んだんだ?」
抱えた膝に埋めていた顔を上げ、ゴミ箱にインすることなく床に落ちたメモ用紙に視線を向けた。
「ん? あ、ああ、まあ…な…」
「ニノの奴さ、ずっと友達だって…、そう言ったんだぜ? なのにアイツ…。でもさ、いいんだよな、友達だと思ってて…」
たとえニノがそう呼ばれることを拒んだとしても、俺だけは友達だと思っていたいんだ…
再び智の目を濡らし始めた涙が、傷だらけの頬を濡らして行く。
「そうだな…、お前がそうしたいならそうすればいいんじゃねぇか?」
でもな、智…
ニノはお前を裏切った…それだけは忘れんな。
俺は勢い良く立ち上がると、床に落ちたままのメモ用紙を拾い上げ、今度こそゴミ箱の中に投げ入れた。
「帰るぞ?」
「あ、ああ…。でも仕事は…」
こんな時まで仕事の話かよ…
「今日から一週間、改修工事に入るって言わなかったか?」
「そう…だったっけ?」
「ああ、支配人の俺が言うんだ、間違いない」
実際は来月の予定だったんだけどな?
こんな状態の智をステージに上げる訳にはいかないと判断した結果、工事の開始時期を早めて貰っただけ。
他にもダンサーがいないわけじゃないが、智に比べればどいつも見劣りするし、何より客足も悪くなるのは目に見えて歴然だ。
だったらいっそのこと閉めた方がよっぽどマシだ。
雅紀に言わせれば、業者から相当嫌味を言われたらしいが(笑)