第8章 To embrace…
こんなことなら、禁煙ではなく、喫煙可の部屋契約させれば良かった…
俄に痺れ始めた足と、煙草も吸えないことへの恨み節に、心の中で盛大な溜息を落とし、膝の上の智に視線を向けるけど…
「ったく、気持ちよさそうに寝やがって…」
一向に起きる気配はない。
俺は寝ている智のシャツの背中を、そっと捲った。
普段は面倒臭がりな智が、ストリッパーだから…、肌を見せる仕事だから、と珍しくケアを怠らなかったその白い肌には、背中だけじゃない、全体に渡って顔と同じように無数の擦り傷と、赤黒く鬱血したような痕が無数にあって、それを見ただけでも怒りが込み上げて来るのに、更に追い討ちをかけるように視界に飛び込んできた、手首の痣…
相当強い力で抑え込まれたんだろうな…
所々人の指の痕の様な痣が残っている。
「これも…ニノのせい…なのか?」
智をこんな目に遭わせたから…?
だからニノは黙って姿を消したのか?
そうなのか、智?
だとしたら俺は、ニノを…アイツを許さねぇ…
ニノの身に何があったのかなんて、理由は知らない。
仮に智を問い詰めたところで、智が簡単に口を割るとも思えねぇし、俺もあえて聞くつもりはねぇ。
今までもそうしてきたし、これからも変わることは無い。
ただ智が自分から話せば別だが…
智の身体にも、そして心にも傷をつけておいて、勝手に逃げるなんて…最低の人間のやることだぜ?
分かってんのか、ニノ…
この落とし前、どうつけて貰おうか…
沸々と湧き上がって来る怒りの感情と、煙草さえもろくに吸えない苛立ちとが混じり合って、俺は硬く握った拳をベッドに叩き付けた。
その時、
「ん…、んん…」
ベッドの振動が身体に伝わったのか、智が俺の膝の上で小さく身じろいだ。