第8章 To embrace…
「疲れた…、寝てもいいか…?」
一頻り俺の胸で泣いて、漸く智の口から出て来た一言に、俺の肩がガクリと下がる。
泣くだけ泣いてスッキリしたのかも知んねぇけどさ…
俺がどれだけ心配したか…全然分かってねぇのな?
それに聞きたいことだって、山程あんだぜ?
ったく、どんだけ俺を振り回しゃ気が済むんだ、お前は…
俺の膝を枕に、気持ちよさそうに寝息を立て始めた智の髪を、指の先で一房掬う。
するとさっきまでは気にならなかった、細かな擦り傷があちこちにあるのが目に入って、
「…ったく、何やってんだよ、お前は…。傷だらけのダンサーなんか、ステージに上げらんねぇだろうが…」
俺は一つ舌打ちをすると、ローテーブルの上にクシャッと丸められたメモ用紙を手に取った。
「智…へ…?」
筆跡は明らかにニノの物だった。
契約更新やら、諸々の手続きの際に、何度も目にして来たから間違いはない。
でもどうして書き置きなんか?
それも俺に宛てた物まで…
俺は智宛ての物、そして俺に宛てた物とを重ねて広げると、その文面に目を通した。
そのどこを見ても、謝罪の言葉しか書かれてなくて…
自分のせいで智を傷つけたこと…
智を一人部屋に残して行くこと…
勝手に姿を消すこと…
そして、もう二度とステージには立たないことが書かれていて、最後に一言…
『俺を探さないで…』
そう書かれていた。
「…っだよ、コレ…。つか、意味わかんねぇ…」
俺は手の中でメモ用紙をクシャッと丸めると、部屋の片隅に置かれたゴミ箱に向かって投げ付けた。
大きく的を外れた紙は、床にカサリと音を立てて落ちた。
でも智の眠りを妨げたくない俺は、それをそのままにしておくことにした。
智が目を覚ましたら拾えばいいさ、ってね…