第7章 Fate…
物音を立てないように部屋を出た俺を、茂子さんの呆れ顔が出迎えてくれた。
俺は茂子さんの車のトランクに荷物を積み込むと、
「荷物はこれだけ?」
問いかけに頷きだけで答えて、助手席に乗り込んだ。
元々借りてたのがウィークリータイプのマンションてこともあって、必要最低限の物だけで生活は出来てたから…
「で、どうするの? このまま黙って行っちゃっていいの? お世話になったんでしょ? 挨拶くらい…」
「もう済んだから…」
それに俺が下手に劇場に顔出したりすれば、また翔さん達に迷惑をかけるとこにもなりかねない。
だからこのまま黙って消えた方が良いんだ。
あ、でも智は泣くだろうな…
智って、普段は強いふりしてるけど、あれで案外弱いところあるからな…
でも智には翔さんがいる。
翔さんは智を一人で泣かせたりはしない。
だからきっと大丈夫だ。
「そ? それならいいけど…。さ、急がないと夜の営業に間に合わなくなっちゃう」
茂子さんは胸に入れた詰め物の位置を直すと、長い爪を赤く染めた指でハンドルを握り、ピンヒールを履いた足でアクセルを踏み込んだ。
瞬間、爆音を響かせて走り出した車。
俺は大きく揺れた身体を支えようと、シートベルトを手繰り寄せた。
茂子さんは、今でこそゲイバーのママなんてしてるけど、若い頃は相当やんちゃもしてたらしく、多分…だけど、運転の荒さは昔の名残りなんだと思う。
「あ、ねぇ、アンタどうするつもり? アタシもタダ飯食わせてやる程、余裕があるわけじゃないからさ…」
「うん、分かってる。ただ…さ、ステージだけはちょっと…」
本音を言えばステージに立ちたい。
俺が唯一自分でいられる場所だから…
アイツらの嗅覚半端ないし、またどこで噂を聞き付けてくるか分からない以上、あまり目立つことはしたくない。
茂子さんにまで迷惑はかけられないから…