第6章 Accident…
ほんの少しの複雑な感情を持ったまま、他愛もない会話と、カラコンと小気味良い下駄の音を楽しんで居るうちに、俺達は祭り囃しと、境内へと続く参道に所狭しと立ち並ぶ屋台の灯りとで、いつになく賑やかな神社に着いた。
「翔さん、後から来るんだっけ?」
石階段を一段一段足元を確かめながらニノが言う。
「そう言ってたけど、劇場の戸締りしてからだから、もうちょいかかるだろうな」
ニノには、雅紀が来るとは敢えて伝えていない。
翔曰く、ニノを驚かせるため…、要はサプライズってことらしい。
「じゃあ、どうする? 先回っちゃう?」
「そうだな、翔には連絡しとけばいいしな…」
俺は翔に神社に到着したこと、そしてニノと先にブラブラしてることをメールに打ち、送信した。
それから、翔達が着いたら連絡くれるように、とも…
そう大して大きな祭りではないものの、それなりに人が集まれば混雑だってして当然だ。
「コレでよし、と…」
「ねぇ、金魚すくいやろうよ」
「やだよ…、俺世話出来ねぇもん…」
それにこういうトコの金魚って、すぐ死んじまうから…
「じゃあさ、ヨーヨー釣りは? あ、射的も良くない?」
まるで子供のようなはしゃぎっぷりに、俺は思わず肩を竦めた。
この調子じゃ、翔達が来る前に両手が塞がっちまう。
一つ溜息を落として、目の前にある筈の黄色い浴衣に視線を向けるけど…
「あ、あれ…? 嘘だろ…?」
揃いで買った黄色い浴衣はどこにも見当たらなくて…
「二、ニノ…?」
俺は人並みを掻き分けるようにして、歩を前に進めた。
勿論、ニノが興味を持ちそうな屋台も覗き込みながら…
でもニノの姿はどこにもなくて…
「アイツ…、いい歳して迷子って…洒落になんねぇし…」
頭をポリッと掻いて、辺りをグルっと見回した。
その時、俺の目の前を、見覚えのあるキャップが通り過ぎて行った。