第6章 Accident…
浴衣を買ってはみたものの、舞台衣装で着る以外は、自分で着つけなんてしたことのない俺達は、考えた挙句、売り場の店員に着付けを頼み込み、そこから祭り会場である神社に向かうことにした。
「なんかさ、変な感じじゃない?」
カラコロと下駄を鳴らし、少し前を歩くニノが俺を振り返る。
「何が…」
「だってさ、俺達浴衣は…あんま無いけど、着物とかけっこう舞台で着てるじゃん?」
「まあ…な…」
確かにニノの言う通りで、曲のイメージにもよるが、衣装に和服を選ぶことも少なくはない。
実際、花魁の衣装なんてのは、客受けが抜群に良い。
俺にはとっちゃ、ただひたすら重たいだけで、あんなゴテゴテした着物のどこが良いのか、全く理解出来ねぇけど。
「でもさ、男物を着ることって滅多にないから、凄く新鮮じゃない?」
「言われてみれば新鮮かも…」
「でっしょー? 新鮮だよねー♪」
ニノの、いつになくはしゃいだ声と、笑顔が弾ける。
でもさ、ニノ?
お前…無理してんじゃねぇか?
それはここ二、三日ずっと気になっていたことで…
俺にはニノが無理に明るく振る舞っているようにしか見えなくて…
「なあ、ニノ…お前さ…」
その理由を尋ねようとしては、
「…やっぱ何でもねぇ…」
繰り返し湧き上がってく不安を飲み込んだ。
言ってくれる、って思ってたから…
もし本当に辛くなったら…、ステージ上で笑えなくなったら、俺にだけは打ち明けてくれるって、そう信じてたから…。
だって俺達、お互い数少ない友達…だろ?
尤も、ニノが俺はのことを“友達”だと思ってくれてるかどうかは、俺は知らないけど…
でも少なくとも俺はニノを“友達”だ、って思ってる。
潤を失くしてから、初めて出来た唯一の友達だ…、ってな。