第5章 Time…
智にダンスの経験があるのは分かった。
それもかなり高いスキルとテクニックを持っていることも。
智の本気のダンスを見てみたい。
出来ることなら、ステージに立たせてみたい。
ただそれを切り出すチャンスが中々見つけられずにいたそんな時、たまたまメインで踊る筈だったダンサーが、急な体調不良の為にステージに立てないと、俺のスマホに連絡が入った。
俺は迷った。
確証はあるものの、智が素直にYesと言うだろうか…
しかも用意されたステージは、必ずしもダンスをお披露目する場ではなく…なんなら客の大半が野郎の裸を見に来んだから、ステージに立つだけでも、相当な勇気と、それから覚悟が必要になって来る。
果たして智がそれを受け入れるかどうか…
でも迷っている時間なんて、そう多くある筈もなく…
刻々と開演時間が迫る中、
「悪ぃ、ちょっと頼まれてくんねぇか…」
俺は智の手を引いた。
「えっ、ちょっと何っ…」
理由を告げることもなく、智を車の助手席に座らせると、無言のまま車を劇場へと向かって走らせた。
「なあ、何なんだよ…、いきなり…」
シートベルトを肩に掛けながら、智が戸惑いの声を上げる。
「実は、な…」
いや待てよ?
智のことだ、いきなり大衆の前で素っ裸になって踊れ、って言ったところで嫌がるに決まってる。
それこそ車からだって飛び降りかねない。
ここは黙っとく方が得策か…
「やっぱ着いてから話すわ…」
「んだよそれ…。意味分かんねぇ…」
俺は不貞腐れた顔で俺を睨む智の手を握った。
智もそれを拒むことはしない。
寧ろそうしていることが、智にとっての精神安定剤のようにもなっていた。
…けど、その効果も劇場に着いた途端、まるで雲を蹴散らすかのように消えて失せた。
ま、当然だよな…
踊りたくねぇ奴に、いきなり素っ裸になって踊れ、って言われりゃ…、な。