第5章 Time…
一緒に暮らし始めた当初の智は、兎に角何をするにも投げ槍で、息をするのでさえ、面倒だと言わんばかりだった。
まるで生きることを自ら拒絶しているような…、そんな風にも見えた。
尤も、それは全くの間違いではなくて、時折ベランダに出ては、柵から身を乗り出し、遥か遠い地上を虚ろな目で見下ろしていたことだってあった。
そんな時、智は必ずと言って良い程、
「潤に会いたい…。潤の所に行きたい…」
そう譫言のように繰り返した。
その度に俺は、泣き崩れる身体を抱き締め、涙が枯れるまで背中を摩りながら、高所恐怖症の自分が、ただ見栄のためだけに高層階に部屋を借りたことを後悔した。
「連れてってやるから…、いつか、俺が…」
出来もしない約束を口にしながら…
そんなことが半年は続いただろうか…
半年経っても智の自殺願望は失せることなく…
行動にこそ起こすことは少なくなったが、隙あらば…と言った感じだった。
そんな日々の中、ある時俺は、たまたまショーで使う曲をPCで聴いていた。
するとそれまで洗濯物を干していた智の足が、最初は静かに…でもその内に小刻みなステップを踏み始めた。
その時俺は直感した。
もしかして智、ダンスの経験があんじゃねぇか…
ってね。
ただの勘じゃない、劇場支配人として何人ものダンサーを見て来た俺がそう思ったんだから、間違いはない筈。
それから俺は、事あるごとに音楽をかけた。
智の好みが分かないから、それこそ演歌からクラシック、ジャズもロックもポップスも…ありとあらゆるタイプの音楽をかけ続けた。
最初こそ俺の行動を訝しんでいた智だったが、元来生まれ持った性質なのかなんなのか…、溢れるリズムに合わせて身体を揺らし、その足は華麗なステップを踏み始めた。