第1章 Stage…
「ただいま…」
楽屋に入った俺は、写真に向かって声をかけると、すぐさまシャワールームに駆け込んだ。
脱ぐ物はなんてないから、楽なもんだ。
ぬる目のシャワーを頭から浴び、顔に施したメイクと、身体に塗ったクリームを洗い落として行く。
流れ落ちて行くメイクと一緒に、ステージで声援を一身に受けていた俺が消えて行くこの瞬間が、俺は好きじゃない。
出来ることなら、ずっと踊っていたい。
何も考えることなく、一心不乱に舞っていたい。
叶わない事だけど…
全身に纏わせた泡を流し、シャワーコックを捻ると、俺は身体に着いた滴をタオルで拭い、軽く火照った身体に私服を着込んだ。
荷物なんてないから、スマホだけをジーンズのポケットに捩じ込み、鏡に向かった。
実際には、鏡ではなく、鏡の前に立てられた写真立てに、だけど…
「じゃあな…、また明日来るから…」
写真の中の笑顔を指でなぞり、写真立てをパタンと伏せた。
後ろ髪を引かれる思いで楽屋を出ると、階段下からステージを終えたダンサーが息を切らして昇って来る。
「お疲れ…」
「あ、お疲れ様でした」
擦れ違いざまに言葉を交わして俺は階段を下りた。
「寄り道しないで真っ直ぐ帰れよ?」
翔が俺の肩を叩く。
「分かってるよ…」
ガキじゃあるまいし、口煩いったらないぜ…
俺は翔を振り返ることなく、劇場の奥にある裏口へと向かった。