第4章 Asymmetrical…
程なくして、健がメイク落としと俺の荷物を手に、支配人室のドアをノックした。
翔が若干面倒臭そうにタバコを灰皿に揉み消し、エグゼクティブチェアから腰を上げる。
ドアに鍵かけたの、自分なのに…
「今開ける」
翔の声がするまで叩かれ続けるドアに、ため息混じりの返事をして、カチャンと鍵を解除する。
するとそれを待っていたかのようにドアがバーンと開いて、
「もお、支配人ったらいつまでもアタシにこんな重い物持たせる気?」
ついさっきまで静寂だけで満ちていた支配人室に、賑やかな声が響いた。
つか、ンな重たくもねぇだろうが…
「悪かったな。ご苦労さん」
「ふふ、どういたしまして♪ それより、智の具合はどうなの? 熱があるって聞いたけど…」
へぇ…、一応心配してくれてるんだ…
「大したことはないよ。少し休めば良くなる筈だ」
「そうなの? ああ、でも心配だわ…。もし困ったことがあったら、遠慮なく言って頂戴ね? アタシ、病人のお世話は出来ないけど、支配人のお世話は出来るから♡」
なんだ…、結局はそこかよ…
一瞬でも“良い奴”だなんて思って損したぜ…
「あ、ああ、その時は…な…」
顔なんて見なくたって分かる、翔の奴、絶対困った顔してる(笑)
翔のジャケットに包まった俺は、口元を手で抑え肩を揺らした。
そこへ、
「笑ってんじゃねぇ…」
健の配いを終えた翔が、メイク落としのパックを投げて寄越した。
「痛って…。俺、これでも病人なんだけど…」
「うっせー、さっさとメイク落とせ。じゃないと…」
ジャケットの裾から伸びた内腿を、翔の手がスルリとなで上げ、
「あっ…はっ…」
「いつまでもこのままだぞ? いいのか?」
甘い息を漏らした俺の耳元に、悪魔のような囁きを投げつけた。
くそっ…、さっきまでの善人面はどこ行ったよ…