第29章 Another dancer…【Extra edition】
それ以降、何の会話もないままの時間が、俺の想像を超える速さで過ぎて行った。
なのに、その速度に反比例するかのように車はノロノロスピードで…
「ヤバいな…、このままだと間に合わないか…」
徐々に薄暗くなって行く視界に、ヘッドライトを灯しながら、ポツリと呟いた。
「ニノ、悪いけど坂本さんに電話入れといてくれる?」
「えっ、俺…が…?」
いやいや、今ここには俺とニノしかいないし、俺は運転中だから電話出来ないし、だからニノに頼んでんだけど…
「ああ…、坂本さんが嫌なら滝沢でもいいからさ…」
「分かった…、タッキーに電話する…」
ニノは坂本さんが、嫌いってわけじゃないんだろうけど、あまり得意ではない。
ま、毎回ダンスレッスンであんだけ絞られりゃ、無理もないけど(笑)
「あ、でも何て言えば?」
「あー、今日は行けそうもないって言っといて?」
「え、でも頑張れば間に合うんじゃ…」
ニノの言う通り、頑張れば間に合わなくもないとは思う。
でも恐らくは、公演開始時間ギリギリになってしまうのは、容易に予想出来るわけで…
そんなギリギリの状態で、ニノを…いや、ニノに限らずなんだけど、ステージに立たせるようなことは、出来ればしたくない。
万全の体勢で望まなければ、舞台上で何が起こるか分からないから…
もしニノが怪我でもしたら…、それこそ俺は一生後悔することになる。
「いいからいいから。とりあえず滝沢に連絡だけ入れといてよ」
「分かった…」
滝沢ならば…と、ニノが俺のスマホから電話をかける。
その横顔が、どこか戸惑ってもいるようにも見えるのは、舞台に穴を空けてしまうことへの辛さ…、みたいなのも含まれてるんだろうな…
ニノは、こんな風に見えて、実はステージで踊ることが好きだから。
勿論俺も、ステージで無数のスポットライトを浴びて、キラキラ輝きながら踊るニノが、この上なく好きで好きで堪んないんだけどさ(笑)