第29章 Another dancer…【Extra edition】
増田がジッポを包装している間、ニノは俺から離れて店内を一人見て回っている。
俺はニノに聞こえないように、増田の耳元に口を寄せると、
「悪いけどさ、分割で頼むわ」
財布の中からクレジットカードを取り出した。
正直、支配人とは言え、雇われの身…
そこまで贅沢出来る身分でもない。
「仕方ないな〜。じゃあさ、どうせ分割にすんなら、これも一緒にどうよ?」
増田が俺の目の前に差し出したのは、何の飾りも付いていない、シンプルなシルバーのリングで…
「彼氏、喜ぶんじゃない?」
満面の笑みを浮かべて、ニノをチラリと見た。
それには流石の俺も、
「か、彼氏って…、そんなんじゃないし…、まだ…」
顔が熱くなるのを感じた。
でもそこで引き下がらないのが増田っておとこだ。
「“まだ”ってことは、いずれなるんでしょ?」
なんて言って来るもんだから、対応に困ってしまう。
でも…
「本当に喜んでくれる…かな…?」
ニノの笑顔が見られるのなら…、富士山の天辺からだって飛び降りれちゃうんだよな…
はあ…、俺って単純(笑)
結局、増田に上手いこと言いくるめられ、予想外の買い物をさせられた俺は、軽くなった財布(実際にはカードだから変化はないけど…)と、ニノの手を握り店を出た。
「ねぇ、本当に良かったの? 俺、いつ返せるか分かんないよ?」
まだ金の心配をするニノを、俺はそっと肩に腕をかけ、その小さな身体を抱き寄せた。
「気にしなくて良いって言ったでしょ? 俺がニノのためにしたいだけだから…」
「でも…」
ニノが異常に過敏になるのも無理はないか…
今の幸せを掴むまで、ニノはずっと金に苦しめられてきたんだから…
「じゃあさ、こうしない? 一日一回で良いから、俺に笑顔見せてよ」
「は? 何言ってんの? 20万だよ? 馬鹿なの?」
馬鹿って言われたって良い。
俺にとっては、20万なんて、ニノの笑顔に比べれば、全然安いもんだ(笑)