第29章 Another dancer…【Extra edition】
「あ、あのさー、お父さんて煙草とか吸う人?」
ガラスケースの中を物色していた増田が、ニノに向かって言う…けど、ニノは相変わらずで…
「え、ああ、うん…、吸う…よな?」
結局俺が中継しなきゃなんないんだよな(笑)
だって俺には素直なニノだからさ。
「ふーん、じゃあさ、これなんかどう?」
増田がショーケースの中から何かを取り出し、ニノの前に差し出した。
「これ…は…、ジッポ…?」
「そ、ジッポ。これね、けっこう珍しいシロモノでさ、日本では滅多に手に入らないんだ」
なるほどね…、あの増田が、わざわざ手袋までして扱うんだから、こりゃ相当なんだろうな…
「ねぇ、これってさ、お義父さんがいつも乗ってる車と、同じマーク?」
「ああ、そうだね、同じだね」
全体的にシルバーメッキでコーティングされた表面には、高級なことで有名な車のエンブレムと同じデザートの細工が施されていて、車には疎いニノにでもそれと分かるデザインになっている。
「これにしたら? お義父さん、きっと喜ぶよ?」
ま、ニノからのプレゼントなら、何だって喜ぶんだろうけどね、近藤さんは。
「うん…、でも…」
ニノの視線が、専用ケースに無造作に貼り付けられたプライスシールに釘付けになる。
一、十、百、千、万…
「に、二十万!?」
思わず大きな声を出してしまった俺を、ニノが渋い顔で見上げる。
つか、いくらなんでも、たかだかジッポ一個にこの値段…高過ぎでしょ…
ニノじゃなくても釘付けになるさ…
でも…
「これにしなよ」
「えっ、でも俺、そんな金持ってないし…」
「うん、知ってる。でもさ、ニノも気に入ってたんでしょ?」
「それは…、そうだけど…、でも…」
「じゃあコレに決めようよ。金のことなら心配いらないから」
そうだ、ニノが近藤さんに喜んで貰いたいように、俺だってニノに喜んで貰いたいんだ。
だからここは、いっちょ清水の舞台から飛び降りるつもりで、男らしいトコ見せなきゃね。