第27章 All for you…
「わ、分かった…、言うから…、ちゃんと言うから、だから…」
本当に俺から離れて逝こうとなんて、しないでくれ…
俺は一回り小さくなった翔を背中から抱き竦め、相変わらず撫でた肩に顔を埋めた。
心臓の音まで聞こえるんじゃないかってくらいに身体を密着させ、
「愛…してる…」
まるで蚊の鳴くような声で、翔の耳元に囁いた。
「愛してる…、翔…、愛してる…、愛して…」
何度も何度も…、声が涙に染まるまで、何度もただ一言だけを繰り返した。
その間、翔は頷くことも、俺の言葉に答えることもせず、ただじっと俺の声に耳を傾けていた。
それが俺の不安を煽ることを知っていながら…
「翔…、何か言ってくれよ…」
お前の…翔の心が聞きたい…、聞かせて欲しい!
精一杯の願いを込めて、俺は翔の胸に回した腕に力をこめた。
痩せた翔の身体が折れてしまうくらいに、強く…
その時、
「馬鹿だな…お前…。俺がどんだけお前のその一言を待ってたか…、遅ぇんだよ…、ったく…」
ポツリ…と、俺の手の甲を熱い雫が濡らした。
翔が…泣いてる?
いつだって俺に弱さを見せたことの無い翔が…、肩を揺らし、声を殺して、泣いている。
それだけでもう何もいらなかった。
愛してる…
翔の心が、全身が、そのたった一言を命懸けで伝えてくれてるのが分かったから…
もうそれ以上は何もいらなかった。
それから暫くの間、翔と二人小さなベッドに横になり、カーテンを開け放った窓から見える月を眺めていた。
言葉を交わさない代わりに、何度もキスを交わし、その体温を…、その存在を確かめるかのように、指を絡め合い、手を握り合った。
そう…
「いや〜、どうだった? ビックリした?」
今世紀最大級の超ド天然男が、穏やかな時間をぶっ壊した、その時までは…
当然だけど、全ての恨みをこめたパンチは、見事雅紀の腹に命中し、雅紀は涙目になってその場に蹲った。
一緒にいたニノは、
「当然の結果だね」
と、雅紀を仁王立ちで見下ろした。
俺も、そして翔も、それには流石に腹を抱えて笑った。
とても穏やか…とは言えないけれど、その時間が…幸せに満ち溢れたその一時が、俺の心に刺さっていた無数の棘を溶かして行くような…、そんな時間だった。