第27章 All for you…
「夢…じゃないんだな…?」
「ああ、夢じゃない」
本当に…、本当に…
「翔…なんだよな…?」
「くくく、なんならもう一回確かめるか?」
それでも尚信じられないとばかりに声を震わせる俺に、翔は筋肉の削ぎ落ちた両腕を伸ばすと、大きく開いた腕の中に俺をスッポリ収めた。
「翔…、しょ…、俺…、おれっ…」
病院から誂られた物だろう寝巻きが、俺の涙を吸い込んでは濡れて行く。
それを翔は意に介すこともなく、整髪剤で固めた俺の髪を撫でると、
「分かってるから…。ちゃんと分かってるから、もう泣くな…」
胸の中で何度も頷く俺の背中をそっと摩った。
「それより…、もう一回言ってくんね?」
「何…を…?」
顔を上げ、鼻をズッと啜った俺に向かって、さっきまでの柔和な顔から一変、意地悪く目尻を下げた。
「お前、俺にずっと言いたいことがあったんじゃねぇのか?」
言いたい…こと…、って…?
「俺、まだちゃんとお前に伝えて貰ってねぇけど?」
首を傾げる俺に、翔が更に意地悪く笑って唇を尖らせる。
俺が翔にちゃんと伝えてないことって…
「あっ…」
思い出したように顔を赤くした俺の頬を、翔の指がスルリ滑る。
っていうか、お前…
「さっきの聞いてた…のか?」
「まあな。つか、あんだけ耳元でワンワン泣かれりゃ、嫌でも聞こえんだろうが…」
「だ、だってあれは…」
俺はてっきり翔が死んだとばかり思い込んでいたから…、だから…
なのに、マジ…か…
「どうした? 早く言えって…」
戸惑う俺を急かすように、翔のクソ意地の悪い目が俺を見上げる。
っていうか、聞こえてたなら、俺の気持ちなんてとっくに分かってる筈なのに、敢えて言わせようとするなんて…、マジで卑怯な奴。
それが翔だって分かってるから…、だから俺もついムキになってしまう。
「言わねぇ…。あんな恥ずかしいこと、そう何度も言えるかよ…」
「あ、そ…。だったら俺、今すぐそこの窓から飛び降りるけど?」
「は、はあ? お前…何言って…、って、えっ!」
まだ自由に身体を動かすこともままならない状態の翔が、ゆっくりと身体を起こし、ついさっきまで俺の背中を撫でていた手を、窓の手摺に引っ掛けた。