第27章 All for you…

堰を切って溢れ出した感情は、やがて嗚咽となり…

俺はその場に膝から崩れ落ちると、翔の手を握り締めたまま、声を上げて泣いた。

｢俺を置いて逝くな…、俺を一人にしないでくれ…｣と…

どれだけ涙を流したって、どれだけ泣き叫んだって、俺の声が翔に届くことはないって分かってるのに…

｢ごめ…ん…、翔…。俺が馬鹿だった…｣

こんなにも身も心も、全部が叫んでいるのに…

｢愛してる…って…、俺…、まだちゃんとお前に言えてないのに…、酷でぇよ…｣

こんなのって…、ねぇよ…

僅かに開いたカーテンの隙間から見える空は、すっかり夜の影が落ちていて…

夜の静寂を打ち消すかのように、俺の啜り泣く声だけが病室内に響き渡ったその時、俺の手の中で翔の指がピクリと動き、

｢…ったく、とっちか酷でぇんだか…｣

懐かしくも聞き覚えのある、俺が一番好きな…ハスキーがかった声が聞こえ、俺は項垂れていた顔を咄嗟に上げ、辺りを見回した。

けど、そこに声の主の姿はある筈もなく…、いや、あるにはあるけど、でも…

｢しょ…う…？｣

恐る恐る名前を呼んでみる。

｢翔…？｣

今度ははっきりと…

すると、それまで固く閉じていた瞼がゆっくりと開き、唇の端がニヤリとばかりに歪められた。

｢嘘…だ…ろ…？｣

｢嘘じゃねぇよ｣

｢だって翔は死んだって…。だから俺…｣

一度引っ込んだ筈の涙が再び溢れ出し、俺の視界を奪って行く。

｢ばーか、誰が死んだよ…。どうせ雅紀のついた嘘にまんまと騙されたんだろ…｣

｢ほん…とに、生きてんのか…？｣

目の前で起きていることがとても現実とは思えなくて、何度も瞼を瞬かせる度に、ポタポタと涙の粒が床に落ちる。

｢ほんと…に…、翔…なのか…？｣

夢を見てるわけじゃないの…か…？

｢…ったく…、ほら…｣

不意に伸びて来た手が、それまで何年も眠ったままだったとは思えない程の力で俺を引き寄せ、半ば強引に互いの唇が重ねられた。

｢これでもまだ幽霊だと思うか？｣

軽く触れただけの唇からは、それが幽霊でも幻でもなく、確かにそこに翔が存在している…そう思わせるだけの命の息吹が…明確に、そして鮮明に感じられた。