• テキストサイズ

踊り子【気象系BL】

第27章 All for you…


「分かった…、行って来る…」

正直、怖い…

怖くて怖くて…、雅紀の腕を振り解き、自動ドアが開くのももどかしく、薬品の匂いにに満ちた建物に駆け込んだ足が縺れた。

濃い舞台メイクに、コスプレさながらの衣装で、転げるように駆け抜ける俺を、行き過ぎる人達が擦れ違いざまに奇異の目で見たが、俺はそれにも構うことなくエレベーターに乗り込み、翔の病室がある最上階のボタンを押した。

一つずつ増えていく数字を見ながら、何度も息を吸い込んでは、それを吐き出した。

そんなことをしたって、今にも大声を上げて泣き出したい気持ちに変わりはないのに…

翔のことを想うと、胸が痛くて、締め付けられるくらい、苦しくて堪らないのに…

「翔…」

不意に熱くなった目頭に、ツンと鼻の奥が痛んだ、丁度その時、エレベーターのドアが開き、俺は何かに引き寄せられるように、窓から差し込む夕陽に茜色に染まった廊下へと飛び出した。

逸る気持ちを押し殺し、近藤に連れて来られた時の記憶を辿りながら、ネームプレートのかかっていないドアを探し出し、ドアの前で足を止めた。

このドアの向こうに翔がいる…

でもその翔はもう…

零れ落ちそうになる涙を衣装の袖で拭い、ゆっくりドアを引く。

この間来た時には聞こえていた、耳障りな程の機械音が…今は聞こえない。

あるのは静寂だけで…、それが何を意味するのか…

翔と俺とを隔てるカーテンを捲らなくたって分かる。

間に合わなかった…

俺は全身から力が抜けて行くのを感じながら、そっとカーテンを引いた。

「しょ…お…?」

まるで眠っているような…、死んでるとは思えない程、綺麗で穏やかなな顔でベッドに横たわる翔の頬に触れてみる。

「…っだよ…、まだこんなあったけぇのに…、死んでるなんて…、嘘だよな…?」

ポタポタと落ちた大粒の涙が、まだ微かに体温の残る翔の頬を濡らして行く。

「なあ…、目ぇ…開けてくれよ…、翔…、俺…ちゃんと踊ったんだぜ…?」

とても完璧とは言えない出来だったけど…、それでも逃げずに踊ったのに…、ただお前との約束を守りたい一心で、踊ったのに…

「翔…、言ってくれよ…」

良くやった…、って…

「キスしてくれよ…、抱き締めてくれよ…、なあ翔っ!」

ただ一言、おかえり…、って言ってくれよ…
/ 426ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp