第27章 All for you…
全てを出し尽くしたせいか、ステージ上で呆然と立ち尽くす俺に、風磨と涼介が駆け寄る。
「やりましたね、智さん!」
「やっぱ凄いよ、アンタ…」
拍手と歓声に紛れて二人が口々に言うけど、当の俺自身は何が起きているのか全く分からなくて…
客席に向かって手を振る二人の顔を交互に見た。
風磨も涼介も、客席からの声援に大粒の汗が光る顔を輝かせて応えている。
「終わった…んだ…な…。俺、俺…」
納得も、満足だって出来るような踊りじゃなかった…
それでも、ただひたすらに翔のことを想い、翔のためだけに踊り切れたことへの達成感が、俺に涙を流させ続けた。
鳴り止まない拍手と歓声の中、静かに降りて来る緞帳(どんちょう)が下がりきるまでの間、俺は涙で濡れた顔を片手で覆ったまま、客席に向かって深々と頭を下げ続けた。
「智…っ…」
「ニ…ノ…、俺…」
「うん、良く頑張ったね…」
それまで舞台袖で、今にも泣き出しそうな顔をしてステージを見守っていたニノが、緞帳が下がり切った途端に崩れそうになった俺を抱き支えた。
そうでもなきゃ、一人では立っていられなかった。
その時、イヤモニから
「智、カーテンコールが済むまでは気ぃ抜くんじゃない」
坂本が檄を飛ばした。
でもその直後、
「待って!」
雅紀がスマホを手に、逼迫した顔でステージ上に飛び出して来て、ニノごと俺をステージ袖へと引っ張った。
「なに、どうしたの?」
「理由は後! 坂本さん、後は頼みます」
理由も分からず、戸惑い顔を見合わせる俺達を、雅紀と近藤が引き摺るようにして、機材に溢れた舞台裏の暗い通路を通り抜ける。
そして裏口を出てすぐの所に停めてあった近藤の車に乗り込むと、急げとばかりに俺達に向かって手招きをした。
「一体何なんだよ…」
「いいから、黙って着いて来て」
苦情を言う俺に、雅紀が振り返りざまに険しい顔を向ける。
その表情からは、何か…緊急事態が起きていることが見て取れた。
「ニノ…」
不安を隠しきれなくて、隣に座るニノを見るけど、ニノも俺と同様、不安気に首を横に振るばかりで…
俺はニノが握ってくれた手に、キュッと力をこめた。