第27章 All for you…
和楽器を取り入れたロックチューンが一層その激しさを増し、全体を茜色に染めていたスポットライトが落とされた瞬間、一転してステージ上が闇に包まれた。
そして一人二人と静かに近付いて来る人の気配。
風磨と涼介だ。
二人は両手を広げた状態の俺から着物の袖を引き抜くと、ステージの裏手、スクリーンの後ろへと運び、俺の丁度真後ろに立った。
俺は二人の気配を背中に感じながら、じっと瞼を閉じてそのタイミングを計る。
こんな時、まともにカウントを取れないことに申し訳なさを感じてしまうが、それも二人は納得ずくで…
俺の吐き出す呼吸音と、二人の吐き出す呼吸音が、徐々に重なり始め…
まるでその時を待っていたかのように、暗転したステージの中央にピンスポットが落とされ、それめで喧しいくらいに鳴り響いていた音楽がピタリと止んだ。
再び降り注ぐ眩い光の中で、マリオネットのような…何かに操られるように、着物を脱いで身軽になった身体を動かした。
風磨も涼介も俺の動きに合わせて、全身を使って、無音の世界を表現する。
そして繋がれていた糸が全て切られた瞬間、俺はその場にクタクタと崩れ落ちた。
そう…糸の切れたマリオネットのように…
額に浮かんだ汗が、頬を伝って板の上にポタリと落ちては、吸い込まれて行く。
息が…苦しくて…、呼吸をする度に肩が上下する。
指の先一つ動かすのも辛いなんて…、前はこんなじゃなかったのに…
でもまだだ…、まだ俺は…
緩やかに流れ始めた曲に合わせて、俺はゆっくり身体を起こした。
その時、
「そうだ、智…。それでいい…」
いる筈のない翔の声がどこからともなく聞こえて…、俺は伸ばした指の先に全神経を集中させた。
翔に届くように…
翔に触れられるように…
「智、踊れ…。お前が思うままに踊れ…」
翔…
瞬間、溢れ出した翔への想いが、胸の奥で真っ赤な火花を散らして燃え始めるのを感じて、俺は曲調が変わったのをきっかけに、元々得意だった細かくリズムを刻むステップで、所狭しとステージ上を舞った。
翔…、見てるか…、翔…
ただ一人、翔への想いだけを乗せ、全身全霊で…
そして全てを出し切ったと…、そう感じた瞬間、それまでシンと静まり返っていた客席から、割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こった。
終わっ…た…
そう思った途端、一筋の涙が頬を伝った。