第27章 All for you…
何もプレートのかかっていないドアに手をかける。
その手が微かに震えてるのは、どうしてなんだろう…
この扉の向こうに何があるのか…
誰が俺を待っているのか…
不安を隠せない俺は、思わずニノと近藤を振り返り見た。
二人は何も言わず、ただコクリと頷き、それまでにないような穏やかな笑みを浮かべた。
俺はゴクリと一つ息を飲み、そっとそのドアを開けた。
すると、薄いカーテンを引いた向こう側から聞こえて来たのは、規則正しくリズムを刻む電子音で…
開け放った窓から吹き込む風に靡くカーテンを、俺はゆっくりと捲った。
「えっ…?」
瞬間、視界に飛び込んで来た光景に、俺は両目をこれでもかってくらいに見開いた。
「嘘…だろ…? どうして…」
目の前の光景に、信じられないとばかりに後ずさる俺を、近藤の手が抱きとめた。
「な、なあ…、どうなってんだよ…? だって…、だって…」
アイツは…
翔は死んだって…
「騙してたのかよ…」
雅紀も、坂本も、近藤も…、ニノまで…
寄って集って俺のことを騙してたってことかよ…
俺は自分が立っている場所が、グラグラと揺れるのを感じた。
「違う、そうじゃない。誰もお前を騙したりしていない」
「何が違うんだよ…。騙してないって言うなら、どうして今まで黙ってた…、翔が生きてるって…」
どうして誰も…
俺は近藤の手を振り払い、固く握り締めた拳を、その厚い胸板に叩き付けた。
何度も何度も…
ニノが泣きながら俺を止めるまで、何度も…
「智…、聞いて?」
「嫌だ…、何も聞きたくない…。も…、誰も信じらんねぇよ…」
もう…何も信じたくない…
その場に泣き崩れた俺を、ニノの細い腕が抱きとめた。
「あのね、智…? 皆智を騙したくて黙ってたわけじゃないんだ。それが翔さんの願いでもあったから…」
「翔…の…?」
「翔さんね、意識を失う直前…、救急車で運ばれてる時に言ったんだ…
“もし智がもう一度ステージに立ちたいと…、そう思える時まで、俺のことは死んだことにしてくれ…”
って…。馬鹿だよね…、自分が生きるか死ぬかも分かんない時にさ…。だっておかしいでしょ…、本当に死んじゃうかもしれなかったのに“死んだことにしてくれ”なんて…、おかしいよ…」
ニノの目からポタリと落ちた涙が、俺の頬を濡らした。